アイドル楽曲派アナトミア 第2回 callme
アイドルシーンが多様化するなか、ヴィジュアルで推すだけでなく音楽性を重視する“楽曲派”が台頭している。そうした音楽的クオリティの高いアイドルを解剖していく連載。今回は楽曲制作をセルフプロデュースで手掛ける20歳の3人組、callmeにスポットを当てた。
セルフプロデュースで才能を発揮
ブラックテイストの追求に手応え
ジャジーなピアノが軸のサウンド。ブラックテイストのクールな楽曲。それをセルフプロデュースで生み出すcallme。元は仙台発のアイドルグループDorothy Little Happyの同い年メンバーだったRUUNA、KOUMI、MIMORIの3人が、高3の年の“卒業制作”の趣旨で作ったユニットだが、そのままグループからも卒業して本格的活動に移行。MIMORIが作曲、作詞は3人で分担し、振付はKOUMIが担当している。
MIMORIは「中学生の頃からDTMに興味を持ち始めて、趣味で曲を作ってました」と言い、ストックのひとつがピアノで弾いたデモ音源から、ソウルテイストな1stシングル「To shine」(15年3月)になった。
「ニコニコ動画が好きで、ボカロPさんたちの曲をいろいろ聴いてました。あと、ジブリやディズニーの映画音楽のアルバムを集めていたり。ゲーム音楽も好きで、聴くジャンルは幅広いです」(MIMORI)
彼女が提出したメロディの印象を、エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ(現・エイベックス・エンタテインメント)制作部の山田隆史氏は「ポップではないのが面白いと思いました」と語る。
「あまり素直なメロディではなくて、その分、引っ掛かりがあったり、展開がちょっと変わっていたり。頭が柔らかくて器用なタイプで、影響を受けた音楽を自分なりに解釈する際に、彼女らしいフィルターが掛かるんでしょうね」。
楽曲制作に当たってはRUUNAとKOUMIも「こういう感じはどう?」と、気に入っている曲のプレイリストを持ち寄る。そこからMIMORIがイメージを沸かせてピアノに向かうが、音楽の好みは三者三様。
リーダーのRUUNAは「私はキャッチーなJ-POPの曲が好きで、“来てる”と言われるアーティストさんの音楽を分析したがります」と言う。「コアに行きがちな2人を引き戻す役」を自認し、作詞も明るい曲で担当することが多い。KOUMIは「洋楽をよく聴いていて、海外のチャートに入るようなヒットソングが好きです」とのことで、折々に気になるアーティストとしてチャーリーXCX、トロイ・シヴァン、ザ・チェインスモーカーズといった名前を挙げてきた。英語も堪能で、英語詞ラップの詞曲も手掛ける。
そうした3人の趣向が融合するcallmeだが、当初に打ち出されたテーマは“60・70年代”。「ポップロックは他でもやられているので、callmeはブラックテイストを掘り下げて、ダンスが映えるパフォーマンスを追求していこうと」(山田氏)。3人に馴染みあるジャンルではなかったが、山田氏から音楽関係の辞典や書物も渡された。R&Bやヒップホップの歴史、音楽用語辞典、ジャズのコード譜……。「とにかく勉強してもらわないと、どこかでセルフプロデュースは破綻するので」(山田氏)
アレンジャーにジャズやR&B、ヒップホップを駆使するトラックメーカーRumb(塚﨑陽平)を配し、15年10月に1stアルバム「Who is callme?」を発売。シャレた楽曲のクオリティの高さが評判を呼んだ。EDM、ラテン、ファンクなども取り入れた名曲揃いのなか、3人はピアノのリフで始まるアンニュイな「I’m alone」に手応えを感じたという。
「鍵盤が軸になったムードのある曲が、自分たちの得意ゾーンだと思い始めました」(MIMORI)
この路線は2ndシングルのカップリング曲「Real love」(16年4月)、3rdシングル「Confession」(16年6月)と結実していく。さらに、完成度を高めた2ndアルバム「This is callme」(16年9月)のリード曲「Sing along」は同じくピアノの音が転がりつつ、callmeには珍しい明るい曲調で幅を広げた。
独自性とポップさのギリギリの
バランスを探って挑戦を続ける
そして、今年3月に発売した4thシングル「Bring you happiness」はとことんポップに振り切った。物流用パレットのPRソングという珍しいタイアップで、3人で倉庫見学にも行き、「パレットは物だけではなく幸せをみんなに届けている」とのコンセプトから、イメージをガラッと変えたハッピーチューンに。「今はたくさんの方に聴いてもらえる楽曲を作る時期」(MIMORI)との意向もあった。ただ、過程では3人の音楽観の違いが露わになるひと幕も。
「それぞれがポップだと思う曲を持ち寄って方向性を決めようとしたら、ポップの捉え方が3人で全然違っていたんです。私は『これぐらいやったほうが』と思ったものを出したら、『行きすぎ』と言われたり」(RUUNA)
「私は逆に、弾けたリズムで明るいと思った曲を出したら、『暗いよ!』と言われました(笑)」(MIMORI)
「みもは作曲するときも#(シャープ)に行きがちなので」(KOUMI)
そんななか、「ポップすぎてもcallmeらしくない」(MIMORI)とギリギリのラインを探り、独自性も残しながら心地良いナンバーに仕上がった。英語のサビは詞と曲を少しずつすり合わせながらハメていき、流れるようなメロディに乗ってキャッチー。ライブでいち早く披露されて盛り上がった。なお、callmeのレコーディングは山田氏によれば「珍しいやり方をしている」とのこと。日にちを決めて一気に録るのではなく、ライブと並行しながらスタジオに入る日数を限定せず、聴こえ方や観客の反応を見ながらメロディやアレンジを手直し。必要なら歌も録り直して、行程いっぱいまで粘る。バンドに近いスタイルで、セルフプロデュースならでは。今回のシングルには2ヵ月ほどかけた。
カップリング曲「It’s own way」は一転、“自分たちの今までとこれから”をテーマに、10分以上に及ぶプログレッシブロック並みの大作となった。こちらは思い切り洋楽っぽく、KOUMIの英語ラップも含め起伏に富んだ展開。もう1曲「I never know tomorrow」はRUUNAのぬくもりあるヴォーカルをフィーチャーしようと、彼女作詞で歌謡曲テイストのメロディに。表題曲ではポップを全面に打ち出しつつ、枠に捉われず創造性ある試みも続けている。
ダンスも最近は「いい意味でヘンに見えることを追求しています」(KOUMI)という。首をクイクイさせる振りがあったり、「Bring you happiness」では両手の使い方がダイナミックで、絵の具のバレットに掛けた動きも。
すべてにおいて、callmeは“ギリギリ”を探る。コアになりすぎずポップに行きすぎず。クールでもキャッチーに。そこから唯一無二な音楽性が生まれてきた。立ち位置も山田氏によれば「アーティストでもアイドルでもないガールズユニット」とのスタンス。
「ただ日本でも海外でも、アイドルは追求する場だったと思います。マドンナやレディー・ガガも最先端を取り入れながらやっているので。今のシーンのなかでcallmeをアイドルと見ていただいてもいいですし、大きい志を感じてもらえる方が1人でも増えたらうれしいです」(山田氏)
ちなみにcallmeのこれまでの曲は、すべて英語タイトルだ。
「日本だけではなく世界で聴いてもらえる曲を作ってパフォーマンスしたい気持ちを込めています。最終的に世界ツアーをできるグループになるのが目標です」(RUUNA)
callme
(写真左から)RUUNA/秋元瑠海(あきもと・るうな)=1996年9月 9日生まれ、MIMORI /富永美杜(とみなが・みもり)=1996年6月14日生まれ、KOUMI/早坂香美(はやさか・こうみ)=1996年5月31日生まれ。全員宮城県出身。最新シングル「Bring you happiness」が発売中。
詳細は公式HPへ
「Bring you happiness」MV
TEXT=斉藤貴志