「DOME TREK 2016」外伝 第1回 佐々木彩夏編

「ももっと」シリーズがはじまった理由はドームにあり

 
 6月11日から公開されている『ももっと、佐々木彩夏』はもうチェックしていただけただろうか?
 20歳の誕生日にアップされたので、非常にスぺシャル感が高くなっているが、じつを言うと、これは単発の企画ではない。HUSTLE PRESSでは『ももっと、○○○○』シリーズを毎月、掲載していく。つまり、これは連載企画の第1回目で、すでに第2回となる『ももっと、高城れに』も準備中だ(7月中旬に公開予定)。
 井上編集長から、このプランを聞かされたとき、ちょうど、ももクロはドームツアー『DOME TREK 2016』の真っ只中だった。だからこそ、僕は「ぜひ、やりましょう!」と話に乗った。
 なぜならば、ドームツアーでメンバーの「個」が明確にクローズアップされたから。
 このタイミングなら、ソロインタビューでそれぞれの「個」を掘り下げ甲斐があるし、メンバーも語ることは山ほどあるだろう。月イチペースでソロインタビューを掲載できる媒体はなかなかないし、早いタイミングで本人たちから語ってもらったほうが絶対にいい(とはいえ、最後に登場するメンバーは11月になってしまうのだが……)。
 さらにいえば、インタビューがメインというわけではなく、しっかりと撮りおろしたグラビアもドーンと掲載されるという。ちなみに佐々木彩夏編のテーマは『清純』とのこと。あまり飾らない素を写真で引き出し、インタビューでは現段階での本音の部分を聞き出せたら、と思っている。
 ドームツアーを完走し、それぞれソロ活動がスタートしはじめている今こそ、世間に届けたい企画なのである。
 

「無言」なのに「雄弁」……佐々木彩夏の貫禄

 
 それほどまでにドームツアーのインパクトは大きかった。
 基本的に全国5つのドームで2日連続公演を行ない(札幌ドームのみワンナイト公演)、その2日間で、まったく違うセットリストをこなす。
 初日は『AMARANTHUS』、2日目は『白金の夜明け』。
 2月17日にリリースされたアルバムの楽曲を、収録順に披露するのが「本編」となっていた。
 そもそもアルバムの世界観がしっかりとしているので、コンサートの品質は保証済みではあったが、なんといってもニューアルバム2枚分の内容である。
 シングル曲も収録はされているが、2枚のアルバムで20もの新曲ができあがった。
 それを短期間ですべて覚えるだけでも大変だが、翌日には、また違うことをやらなくてはいけない。これは相当な負荷になる。
 さらにメンバーには「ソロ」での出番が用意されていた。
 ソロ曲を歌うのではなく、それぞれが楽器の演奏などのパフォーマンスを披露する。
 それが楽曲のイントロになっているので、もし、失敗してしまったら、曲がはじまらない。ソロパフォーマンスではあるが、5人分の責任を背負っているのだ。
 おいおい書いていくが、プレッシャーに押し潰されそうになっていたメンバーもいれば、終演後、楽屋で大泣きをしたメンバーもいた。
 それほどまでに高いハードルを、ひょいっと飛び越えてみせたのが佐々木彩夏だった。
 いや、飛び越えてみせたように見えただけで、本当はかなり苦闘したはずなのだが、それをステージで見せないのが、彼女なりのプロ意識。ひとりでセンターステージに登場すると、華麗にギターをかき鳴らしてみせた。
『ももっと、佐々木彩夏』のインタビューでも答えているように、短期間のレッスンでプロ並みに上達するわけがないから、彼女は「魅せ方」を探求した。
 ジャーン、とかき鳴らして、観客を煽る。
 耳に手をあてて「もっと盛り上がって!」と無言で“圧”をかけるさまは、全盛期のハルク・ホーガンを彷彿とさせる貫禄。
 ぶっちゃけ「あれ、今、間違えたよね?」という局面であっても、そのパフォーマンスで押し切ってしまう。このあたりはピアノを担当した玉井詩織には絶対に許されない芸当だが、押し切ってしまう貫禄もまた「演奏」の一部。それをドームでやってのけるというのは、なかなかできるものではない。
 本編はノーMCで最後まで突っ走るのだが、佐々木彩夏だけは無言のうちに「雄弁」だった。
 

5年前に号泣した少女が、ドームを手玉にとった

 
 さて、世界観を壊さないためにノーMCで駆け抜けたドームツアーの本編。
 当然のことながら自己紹介もしない。メンバーが発するのは「歌声」だけ、である。
 その分、一旦、暗転し、overtureとともにはじまる「第2部」では、トークコーナーがふんだんに用意された。
 試行錯誤を続け、いろいろと形は変わっていったが、開幕戦のナゴヤドームでは20分間ぶっつづけでトークをする、というドームらしからぬコーナーまで設けられた。
 もちろん、意味もなく長いわけではなく、メンバーが気球に乗って客席上空を飛んだりするための時間に充てたり、という事情もあった。
 そのトークコーナーの仕切りを任されたのが、佐々木彩夏である。
 毎日、トーク用のネタを仕込んだり、と準備も必要となってくる。前述したように本編だけでもやることは山ほどあるのに、さらにもうひと仕事、なのだ。
 しかも、本編とは真逆のことをやる。
 本当はわちゃわちゃしているだけで、お客さんはそのギャップで喜んでくれる。つまり、仕切り役は損なのだ。
 その中で彼女が見出したのは、場を仕切りながらも「いじられ役」になる、という選択肢。
 最初は控えめだったが、終盤の福岡・ヤフオク!ドームでは、もはや「あーりんアワー」ともいうべきぶっこわれぶりで、ロビーの売店で買ってきた食べ物をステージ上でパクつくなど、あえての「食いしん坊キャラ」全開。昔だったら恥ずかしくてやれなかったことを、彼女は「それでみんなが笑ってくれるなら」とやりきってみせた。
 いまから5年前、脱退した早見あかりからトークの回し役を引き継いだ佐々木彩夏は「全然、できなかった……」とイベント終了後、ポロポロ涙をこぼして泣いた。
 そんな彼女が、いまやドームを埋めた数万人の観客を手玉にとって、笑わせ、沸かせ、綺麗にまとめるのだ。このときは、まだ19歳。恐ろしいまでの成長ぶりではないか。
 それだけのことができるようになったからこそ、ドームツアーは実現したのかもしれない。
 そして、佐々木彩夏は9月19日、たったひとりで横浜アリーナのステージに立つ。
 本当なら大変なことなのに、まったく不安を感じさせないのは、ドームツアーでの八面六臂の活躍を観たばかりだからなのかもしれない。
 

ライター・小島和宏