PICK UP ACTRESS 恒松祐里
PHOTO=城方雅孝 INTERVIEW=斉藤貴志
「散歩する侵略者」で体を乗っ取った役
2ヵ月練習した初のアクションも披露
――「散歩する侵略者」で演じた立花あきらはムチャクチャする役ですね(笑)。
「そうですね。一番侵略者らしい役です」。
――演じるうえでは楽しかったですか?
「楽しかったですね。なかなか人の首を締めにいったりすることはないので(笑)」。
――演技として……という意味ですよね(笑)?
「はい。すごく貴重な体験をさせていただきました。あきらは本当は普通の女子高生ですけど、侵略者に体を乗っ取られて力も侵略者チックになっているんです。普通ならあんなふうに男の人を倒したりはできないと思いますけど、強くなった役なので、少し押しただけでスタントの方がすごく飛んでくださったりして、やる側としては楽しかったです」。
――でも、楽々と倒すように見せるには、相当の練習が必要だったかと。
「ただポンとやるだけで吹っ飛ばすというより、少し力を入れてやる設定だったので、その力の見せ具合が難しくて。あまり弱い蹴りだと『これだと遠くに飛ばないよ』とアクションの方に言われたりもしました。その場でマットを使って蹴りの練習を50回やったり、重たい人を持ち上げるのになるべく重心を低くするように心がけたりはしました」。
――アクション練習は2ヵ月したそうですが、もともと運動神経はいいんでしたっけ?
「どうなんでしょう? 走るのはすごく遅くて、走り方もダサいです(笑)」。
――50m走のタイムは?
「いや、もう覚えていません。とにかく幼稚園の頃からビリしかなったことがないので(笑)、タイムを覚えることはやめました。でも私、障害物競走は得意なんですよ。ハードルをくぐったり、ボールをスプーンに乗せて落とさず走ったり……。今回のアクションは、どちらかというと、まあ障害物競走みたいなものじゃないですか」。
――そうですかね(笑)?
「ちょっと違いますか(笑)? でも、ただ走るより、何か動きをするのは得意です。たぶん、ダンスをやっていたからだと思います。アクションは動きが決めてあって、いろいろな人とタイミングを合わせてやるので、ダンスやバレエで培ってきたことが役に立ちました」。
――レッスンでもそんなに苦労せず?
「初めての挑戦で難しかったです。助走をつけないと、人の首のところに乗っかれなかったり……」。
――劇中でも児嶋一哉さんが演じた刑事の背中に飛び乗って、スリーパーホールドをかけるような形になってました。
「児嶋さんは身長が高いので、ジャンプしていくのが大変でした。あと、私的に一番難しかったのは蹴ることです。見た目がカッコよく蹴れないんです。しかも、力を入れても強く蹴っているように見えない。今まで、あまり人を蹴ったことがなかったし(笑)」。
――祐里さんがよく人を蹴っていたらビックリです(笑)。
「そんなおてんばさんではなかったので、蹴る練習はたくさんしました。『家でも練習したほうがいい』と言われて、鏡の前でやりました。狭くて危なかったんですけど、壁にぶつかりながら(笑)、型とかはちょこちょこ練習しました」。
――人を投げ飛ばすのは?
「タイミングを合わせるのが難しかったです。そこはダンスっぽかったですね。逆にダンスっぽくしすぎちゃって、アクション練習のときに『ステップを踏みすぎ』と言われたこともありました。ダンスのクセが出ちゃうのを隠すのも大変でした」。
――撮影の本番はスムーズに行ったんですか?
「そうですね。2ヵ月練習させていただいて、最後のほうは児嶋さんとも一緒に何度もやれたので、現場ではその成果を出せて何テイクも撮り直さずに済みました」。
――映画の冒頭から登場するのは、オイシかったですね。
「ああいうふうになっているとは、まったく予想してませんでした。台本を見たとき、私が歩いてくるあとにタイトルが出るようなことも書いてあって、『最初のシーンから私だ』とは思っていたんです。でも、あそこまでカッコよく演出していただいているとは……。すごく光栄でした」。
――血まみれでしたけど(笑)。
「あんなの初めてです! 撮影でも経験ないですし、撮影以外でもないです(笑)。私、クランクインのシーンから、あんなに血だらけでした。『こんなにベトベトするんだ』というくらいすごい血ノリでした。暑さもあるし、夏の血ノリは良くないと思いました(笑)。でも、侵略者なので気にしないようにしました」。
――あきらは血をなめたりもしてました。
「血のりはイチゴっぽい味がしました。そんなにイヤな感じではなかったです。確かメイクさんが片栗粉とかを溶いたりして作ってくれました」。
――そのあとに道をフラフラ歩いて。
「歩き方は工夫しました。立花あきらが体を乗っ取られたばかりのシーンだったので、まだ人間の体の感じがよくわかってないだろうと思って……。ちょこちょこ指を動かして『こういうふうに動く器官なんだ』とか、『胃が動いているな』とか『私、今、膝を上げた』とか、そういうことを意識しながら歩きました」。
――ギクシャクした感じで。
「あと、地球の世界を初めて見るということで、田舎道を歩きながら『この緑色は何だろう?』みたいなことを思ったり……。気温や目に映るものを感じ取ってはいるんですけど、概念を知らないので、頭では何も考えずに歩きました」。
――やっぱり侵略者が体を乗っ取った役ということで、普段の演技の仕方とは違ったようですね。
「全然違いました。撮影期間中は侵略者として、日常生活でいろいろな人を観察して『人間って面白いな』とか『こんなことを思っているのかな?』とか、考えるようにしていました。電車のなかでも人間観察をしましたし、学校でも友だちが眠そうにしているのを見て、『すごく目が重たそうだな』とか、『じゃあ、眠いってどんな感じなのかな?』とか、それこそあきらが観察しているみたいになってました」。
――人間について、改めて発見したことはありました?
「その期間中はあった気がしますけど、今はまた普通の人間に戻ったので、忘れました(笑)。また全部が当たり前のことになっちゃいました」。
正解がない役で難しくもあり
自分で考えることが楽しくて
――あきらは拳銃やマシンガンも躊躇なく撃ちますよね?
「撃ってましたね。侵略者目線で、自分が邪魔だと思う行動をした人は『怪しいから撃ちました』としか言いようがないです(笑)。邪魔しなければ誰も殺さないんですけど、敵だと思ったら躊躇しませんでした」。
――人を殺しておいて、あっさり「だって怪しかったんだもん」と言ってましたよね(笑)。銃を撃つ演技も初めてでしたっけ?
「初めてでした。練習のときは楽しかったです。監督が機関銃にこだわりを持ってらっしゃって、『この型だとこう動く』というようなことをいろいろ教わって、演出していただきました。『もう少し体が揺れるよ』とか『それはやり過ぎ』とか……」。
――祐里さんは明るい性格で現場に溶け込んでいると聞きます。今回は同世代が多かった今までの現場とは違ったと思いますが、そこは変わりませんでした?
「今回は私が一番年下ということで、皆さんにかわいがっていただいた感じがあって、ありがたかったです。温かい雰囲気で居心地良くて、『ずっとこの現場にいたいな』と思いました」。
――大人のキャストの方にも自分から話し掛けて?
「積極的に行ってました。皆さん、私の話を聞いてくださって、いろいろな方と関われました。あと、ずっと笑顔でいるようにしてました。雰囲気的にも、自然に笑顔になりました。不思議なストーリーだったけど、現場はすごく楽しかったです」。
――「くちびるに歌を」のときは、合唱部員の初顔合わせで待機していた際に、祐里さんが英語しりとりを始めたとか。
「やりましたね。あのときはみんなが仲良くなるお話で、私が部長役だったから『引っ張らなくては』と思いました。私はもともと明るい性格のほうで、今回一緒の場面が多かった高杉(真宙)さんが人見知りなんですけど、たくさんお話させていただきました。他のキャストの方では長谷川(博己)さんが一番関わることが多くて、大人の一人旅や大人の男性のお話を聞いて、高杉さんと『かっこいいね』と話してました」。
――試写であきらを客観的に見ると、どんなことを感じました?
「本当に不思議な役でした。アクションは自分で見てもカッコ良く撮っていただいて、ありがたかったし、練習した甲斐もありました。ただ、大人の方たちのお芝居を見ると、すごく宇宙人っぽくて『こういう歩き方もあったんだ』と思ったり、私の最初の血みどろのシーンも『もう少し工夫できたかな?』とか、いろいろ勉強させていただきました。私もあのときの私なりに頑張れたと思いますけど、人間ではない役ということで動き方もどうにもできるし、正解がないんですよね。宇宙人は見たことがないので(笑)。そういう役をやらせていただいたのは、すごくいい経験になりました。難しくもあり、自分で考えることが楽しくもあったので、機会があったら、またこういう面白い役もやってみたいです」。
――映画では怖い感じの役が続いていますが、「スカッとジャパン」や「&美少女~NEXT GIRL meets Tokyo~」では胸キュンな役がハマってました。
「ああいうのは高校生の役だからさわやかに、等身大の私で楽しく演じられればいいかなと思います。『&美少女』の音楽室で一緒にピアノを弾くとか、いいですよね(笑)。私もキューンとする場面だと思いました」。
――祐里さん自身は3月に高校を卒業してから、変わったことはありますか?
「自分を高める時間が増えたので、ギターを弾いたり、絵を描いたり、映画をさらにたくさん観るようになりました。もっとお芝居に活かせるように、時間を使うようになった気がします」。
――ギターは卒業前から真っ先に「やりたい」と言ってましたよね。
「本格的にやれる時間ができたので練習しています。エド・シーランの曲を弾いたりしていて、難しいけどタブ譜があれば弾けます。今は『こういうメロディを弾きたい』と思ったら、何も考えずに楽譜も見ないで弾けるようになりたいんです。自分で考えたメロディが弾けるようになったら、もっと楽しくなると思います」。
――ということは、作曲もしようと?
「できるようになりたいです。(愛猫の)チャーリーの歌を作りたい! 『生意気すぎて困るんだよ』みたいな文句を歌で言ってやろうかな(笑)。『でも、かわいい』みたいな」。
――JKロスみたいなのはありませんでした?
「もともと私、あまりJKっぽくなかったので無いですね」。
――渋谷でキャピキャピしたりはしてなかったと?
「全然してないですね。高校には“出勤して帰る”みたいな(笑)、サラリーマンのような学校生活を送ってました」。
――最後に「散歩する侵略者」にちなんで、祐里さんは散歩はします?
「しますよ。知らない駅で降りて、何も考えずに歩き続けることが好きです。ぶらり途中下車的な感じですね(笑)。この前は高円寺に行ったら、歩きすぎて新高円寺駅まで来ちゃいました。この程度の距離なら路地裏に入ったりしながら、しょっちゅう歩きます」。
――高円寺から新高円寺までの間には、何か面白いことはありました?
「パン屋さんがあって、1人カフェでお昼を食べました。カッコイイですよね(笑)。充実した大人の女性みたいな感じで、クロワッサンやキッシュを食べて、iPodでフランス語か何語かわからない音楽をシャッフルして聴きながら、ルンルンで歩いてました」。
――さすがもうすぐ19歳ともなると……。
「ちょっと大人っぽい散歩になってきました(笑)」。
恒松祐里(つねまつ・ゆり)
生年月日:1998年10月9日(18歳)
出身地:東京都
血液型:B型
【CHECK IT】
子役としてデビューし、2013年にFUNKY MONKEY BABYS「ありがとう」のPVに出演。明石家さんまと共演し、同年の「FNS27時間テレビ」(フジテレビ系)内で明石家さんまが選ぶ「ラブメイト10」の6位になり話題に。これまでの主な出演作は映画「くちびるに歌を」、「ハルチカ」、「サクラダリセット」、ドラマ「まれ」(NHK)、「真田丸」(NHK)、「5→9~私に恋したお坊さん~」(フジテレビ系)など。大塚製薬「ビタミン炭酸MATCH」のCMに出演中。映画「散歩する侵略者」は9月9日(土)より全国ロードショー。
詳しい情報は公式HP