AKB48が10年経ってもAKB48である理由 ~「涙は句読点」発刊に寄せて~

(「スクランブルエッグ」編集長・岡田隆志)
 
 
 AKB48が2015年12月8日、劇場オープン10周年を迎えた。今では「AKB48」といえば誰もが知っている国民的アイドルグループだが、最初の5年ぐらいはほとんど一般には知られていなかった。
 
 10年前の2005年12月8日の劇場オープン当日、秋葉原ドン・キホーテ8階にある劇場で私は1000円のチケットを購入し、記念すべき初日公演を客席で見た。
 
 初日公演は劇場には関係者らしき人が多数来ていたが、アイドル目当てで見ていたと思われるアイドルファンは私の目で見ても数人しかいなかった。とにかくファンへの認知度はまるでなかった。
 
 ところが週末にはあっという間に新しもの好きに口コミで広がり、2005年中には当時の私が知っている「名だたるヲタク(笑)」は劇場に観覧しに来ていた。アイドルの初期とはそういうものだ。その構図は大昔から変わらない。「原宿駅前ステージ」が始まったときもそうであったように。
 
ちなみに原宿駅前ステージも初日公演も見ることができたが、チケット購入ではなく取材・招待枠としてであった。AKB48と私は奇跡の出会いをしたのかもしれない。
 
 

AKB48劇場は「成長物語」を見る場所

 
 AKB48の劇場公演の魅力とはどんなものだろう。現在のように劇場公演自体が抽選で年に数回しか当たらないファンにとっては、まずお目当てのメンバーを間近で見ることそのものが目的になり、それで満足するしかないだろう。
 
 10年前、まだチケットが並んで買えた頃は、「推し」の概念もかなりあいまいで、気になっているメンバー何人かを交互に見て「今日は誰々が調子良いから○○を中心に見よう」というスタイルが多かった。
 
 この先、彼女たちがどうなるのかなんて誰もわかっていなかった。
 
 そして、個々人の成長の余地もたくさんあった。だから毎日MVPが変わっていた。劇場公演はそういった「成長物語」を楽しむ場所だったのだ。それは10年経った今でも基本は変わらない。ただ、AKB48が人気になりすぎて、同じお客さんが劇場の中で成長の過程を見ることができなくなってしまったので、その根本のところがわからないメンバーもいるかもしれない。
 
 見る人が見れば、毎日じゃなくても変化はわかるし、オンデマンド配信でもかなりのところはわかる。握手会の人気やメディア露出だけではわからないことが劇場公演を通して見ると分かることがある。劇場公演の評価システムや評価ポイントが何にどう反映されるのかは時期によっては違いはあれども、成長物語を見る場所であることは10年間変わらないのだ。
 
 だから私も劇場公演でのパフォーマンスはメンバーの成長度、充実度を推し測るために定期的に見るようにしている。
 
 

AKB48は生のドキュメンタリードラマ

 
 AKB48の運営会社であるAKSが芸能に関してあまり詳しくなかったことが後のブレイクにプラスに作用した。始まった頃はファンのほうがアイドルの見せ方、楽しみ方、楽しませ方に詳しかった。だから秋元康プロデューサー、戸賀崎智信劇場支配人(当時)が自ら先陣に立ってファンの意見を聞き、公演システムに反映させていった。
 
 ブレイクに関与している要素としてさらに挙げられるのはインターネットの掲示板だろう。ファンと直接交流が容易ではなくなっても運営サイドは掲示板の書き込みを注視していた(と推測する)。
 
 そして、「アンチ」と呼ばれる別のグループアイドルファンの存在が結果的に大きかった。チャートのランクイン方法からテレビの露出、会場や握手会などのイベント運営に関することなど、アンチがたくさんの課題を掲示板に提示してくれたおかげで、それを次々とクリアしていったのは、芸能に詳しくないがゆえに聞く耳を持っていた運営チームだからこそできたことだろう。難題を少しずつクリアしていき、結果的に名実ともに「国民的アイドルグループ」となったのである。
 
 そして世の中の動きや社会的な出来事とリンクしたこともAKB48が10年も愛され続けた要因のひとつだろう。政治の政権交代の時期ともリンクして、実際の政治よりも話題になった。
 
 世の中に認知された「AKB48シングル選抜総選挙」をはじめ、「組閣」という人事異動、「兼任」「移籍」「交換留学」など新しい概念がどんどん生まれていった。「ドラフト会議」もまたしかり。
 
 それぞれの出来事にメンバーは涙を流し、本音を言う。ファンも最初は運営批判をしながらも、結局メンバーの対応力を認めることによって受けいれることになっていく。
 
 この10年はドキュメンタリー映画では語りきれないほどの生のドラマがあり、その感情の起伏にファンも繰り返し心を揺さぶられてきたのだ。そういった体験をほかのアイドルではできなかったこともAKB48がアイドルとして長く愛されるひとつの理由だ。
 
 

姉妹グループへの広がりとアイドル文化の浸透

 
 AKB48に続き、SKE48、NMB48が誕生する時期になると、ファンの状況もかなり変化が起きる。
 
 「成長物語」がはっきりわかる新しいグループへファンがどんどん「流れて」いった。それはAKB48が失いかけたものを後発の姉妹グループが持っていたからだ。AKB48からSKE48へ、NMB48へ、HKT48へ、乃木坂46へ、チーム8へ、NGT48、欅坂46へと次々と流れるファンもいれば、どこかに留まるファンもいる。もちろんほかのアイドルグループに流れるファンもいる。
 
 AKB48がブレイクしたことで、多くのアイドルグループも生まれ、AKB48の手法を参考にして模倣する事例も増えた。「(劇場盤)握手会」は実に多くのメジャーデビューしたアイドルグループが実施した。
 
 かくして、AKB48が生み出した「グループアイドルの世界観」はその後のアイドル界において「文化」に近いレベルにまで昇華しつつある。宝塚歌劇団やジャニーズのようになる可能性が出てきた。女性グループアイドルというジャンルが確立していくのはまだ10年以上かかるだろう。その礎(いしずえ)をAKB48が結果的に築いたのだと私は認識している。
 
 

「涙は句読点」

 
 2016年3月25日に「涙は句読点~普通の女の子たちが国民的アイドルになるまで~AKB48公式10年史」が発売される。その告知が18日にされた。20日からAmazon、楽天ブックスでも予約が可能となっている。
 
 内容については詳細目次が「AKB48グループ新聞」(全国のコンビニで発売中)に掲載されているのでそちらを参考にしていただきたいが、ネット上ではいまいち内容について理解されていないようなので、本を購入するか迷っている方に向けて、HUSTLE PRESSのサイト上で、この本の背景や性格についてあくまで私の考えではあるが、先行公開をしよう。
 
 「涙は句読点」はAKB48が歩んできた10年をさまざまな角度から掘り下げたもので、歴史物語を描いているものとは性格を異にする。よって、今まで出版されたAKB48の歴史を振り返る出版物とは全く違うものになった。
 
 この本はいわば、「AKB48の10年とは何だったのか」をそれぞれの立場で振り返ったものだ。
 
 インタビューしたメンバーは卒業生を含めると、高橋みなみ、前田敦子、大島優子、板野友美、小嶋陽菜、柏木由紀、渡辺麻友、指原莉乃、篠田麻里子、峯岸みなみetc…。それぞれにAKB48との出会い、AKB48がブレイクしたと感じた瞬間と、自身とAKB48の関係についても聞いている。この本のために新たに時間を作ってもらって聞いた。
 
 宮澤佐江、仲川遥香については海外の48グループについて、松井珠理奈、山本彩、宮脇咲良については、姉妹グループから見たAKB48について語ってもらっている。
 
 9期生は横山由依と島崎遥香に秋元康プロデューサーとともに今後のAKB48について話してもらった。14期生には、バットボーイズに握手会の体験相手をしてもらい、15期生には高橋みなみプロデュース「いちごちゃんず」公演のレポートとともに数人に話を聞いている。
 
 そして伝説の初日観客7人のうち5人が集まった。なぜ初日を見たのか、見てどう思ったか、ブレイクするタイミングはいつだと思ったかを、初期のブロガーも交えて話してもらった。
 
 スタッフにも戸賀崎智信氏、芝智也氏、田中博信氏、牧野彰宏氏、茅野しのぶ氏に、それぞれのAKB48とのファーストコンタクトとブレイクの実感について聞かせていただいた。
 
 ほかにもレコード会社担当、経済学者、CMプランナー、教育評論家、政治家、震災復興支援活動、チーム8トヨタ企画部長、言語学者らからそれぞれの分野から見たAKB48を語っていただいている。
 
 10年間を振り返る資料ももちろん網羅しているが、AKB48の10年は年表や資料などの事実だけにとどめて、「世の中のいろいろな立場の人にとってのAKB48とは、AKB48の10年とは」に重点を置く構成となった。
 
 あくまでも私感ではあるが、公式本とはいえ、都合の良い史実だけを並べるようなことをしないためにも、多くの視点でAKB48の10年を振り返るほうが、より多面的にAKB48を見ることができると考えたからにほかならない。それができるのはスポーツ新聞社の記者であり、AKB新聞を作っている記者だからこそできたことなのではないだろうか。
 
 ということで、私も初期から取材している立場から原稿を書いたり、インタビュー取材をしたり、初期の写真を提供したり、校正の手伝いもさせていただいた。
 
 256ページ30万字というのは大げさな数字ではない。文字がぎっしりと詰まっている。決して1日では読めるものではない。10年がぎっしり詰まった本だ。私の10年もこの本に詰まっている。
 
 きっとAKB48のことをよく知らない人にとっても楽しめるようになっているし、知っているつもりになっている人でも知らないことがたくさん載っている。今回の取材で明らかになったことがたくさんあったからだ。
 
 だからこそ、今後の10年のためにも、姉妹グループの10周年のためにも、こういう形で本を残せて、それに関われたことは自分にとってもとても意義のあることだと思っている。興味をお持ちの方はぜひ手に取っていただきたい。
 
 

■書籍データ

 

涙は句読点~普通の女の子たちが国民的アイドルになるまで~

 
涙は句読点~普通の女の子たちが国民的アイドルになるまで~
(AKB48公式10年史)
 
2016年3月25日発売
2,000円(税込)1,852円(税抜)
日刊スポーツ新聞社
 
Amazon→
日刊スポーツ特設サイト→
AKB48グループオフィシャルショップ(生写真特典つき)→
高橋みなみ卒業コンサート会場でも発売(生写真特典つき)
 
 

■著者略歴

岡田隆志(おかだ・たかし)
 
1960年生まれ、愛知県出身。
 
1979年早稲田大学入学、在学中は「理工SWING & JAZZ同好会」でジャズギターを弾き、卒業後もアルバイトをしながら音楽活動を継続。30歳前後で音楽活動で生計を立てることに限界を感じると同時にアイドル現場に行くようになる。(初代)東京パフォーマンスドールをファンとして250回観覧。アイドルミニコミ誌「スクランブルエッグ」を1994年に創刊。97年からWebサイト「スクランブルエッグon th Web」(http://www.scramble-egg.com/)を開設。2003年ごろからWeb中心にシフト。DTPとWeb制作の仕事をしながら2006年株式会社スクランブルエッグを設立。Webサイト運営、Webサイト設計講師、アイドルライター&カメラマンを兼務しながらAKB48グループ新聞等を始めAKB関連の記事を多数執筆している。